第6章 料理は時代とともに変わるもの【信濃藤四郎、歌仙兼定他】
「もう、なにこのかぼちゃ!硬くて切れないし、戻そうにも包丁が抜けないじゃない!」
「刃が斜めに入ってないかい?貸してごらん」
包丁が刺さったままのかぼちゃをまな板に叩きつけんばかりの気勢に見かねた燭台切が手を貸す。
「なんで切れるのーっ!?」
燭台切によってあっさりと切られたことに納得いかない彩鴇は、真っ二つのかぼちゃを睨みつける。
「こいつ、次からは圧力鍋の刑に処してやるわ」
しまった、親切のつもりが彩鴇の負けん気を刺激してしまった。
「ちょっとこのレシピ、不親切なんだけど。『少々』って何よ?『適量』って何グラムなのよ!?」
今度は2000年代のレシピデータと格闘している。
「なんで同じ鍋の中なのにまだ硬いのが残ってるのよ、これ以上やったら焦げるじゃない!」
同じ食材でも大きさによって火の通りやすさに違いがあることを教えてやる。
「め、面倒くさい……」
なんとか一品作り終えたものの、さらに二品目、三品目を作ろうという気力は到底起きなかった。
普段厨房に立ってくれている刀剣達は毎日これをやってるのか。
「戦場で騎馬を強いるのも大概だと思ったけど、私ってあなた達に過酷な労働をさせているんじゃないかな!?」
「そんなことないよ。馬は慣れればどうということはないし、料理も好きでやっていることなんだから」
青い顔をしている彩鴇をなだめる。
「いいわけないわ!昔の言葉だけど、それはやりがい搾取っていうのよ!?」
変なところで想像力豊かというか、予想の斜め上を行く回答だ。
「僕は、搾取されているなんて思ってないよ。むしろ人の身を得て、いろいろなことができるようになったんだから、感謝しているくらいだよ」
待遇が不満なら訴える権利が、とぶつぶつ呟く彩鴇を諭す。
彩鴇も燭台切の穏やかな声でだいぶ落ち着きを取り戻す。
「……もし何かあったら、思い詰める前に相談してよね」
「そうするよ」
彩鴇が苦労して作ったかぼちゃの甘煮は少し焦げてほろ苦かった。