第6章 料理は時代とともに変わるもの【信濃藤四郎、歌仙兼定他】
「主さん、蓋を開けちゃダメですよ」
鍋が気になって蓋に手を伸ばした彩鴇を注意する。
お米を炊き始めてからずっと鍋の前でこんな調子だ。
そうこうしている内に鍋が白い泡を吹き始める。
火を止めて15分後には完成だ。
「さあ、完成ですよ!」
蓋を開けるとふわりと炊きたての良い香りが立ち込める。
鍋の中からは一粒一粒つやつやと輝くご飯が姿をあらわした。
「炊きたては絶品ですよ。おにぎりを作る前に少しどうですか?」
「……何これ、おいしい!」
ご飯の優しい甘さが口いっぱいに広がる。
大豆加工の米も確かにこの味だが、本物の方が段違いだ。
さくりとしゃもじで空気を入れ、少し冷ましておく。
「ここからおにぎりを作っていきます。中の具は……ないので、塩むすびにしますね」
本来なら昆布や梅干し、ほぐした鮭なんかを入れるものだが、ないものは仕方ない。
「うーん、このくらい?」
「もう少し強く握っても大丈夫ですよ」
彩鴇も堀川に教えてもらいながら、ぎこちない動作でおにぎりを握っている。
一度に握る量もまちまちなので、おにぎりの大きさも歪になってしまう。
「あ、おにぎりですよ!」
手合わせから戻ってきた今剣が目敏く走り寄ってくる。
時刻はお昼前、ちょうどお腹が空いてくる頃合いだ。
皆で食堂に集まり、手を合わせる。
「政府から取り寄せたお米で早速作ってみたんです。主さんと作ったんですよ」
「このでこぼこなのは、あるじさまのおにぎりですね!」
すぐわかりますと今剣が歪な形のおにぎりを口に運ぶ。
「は、初めてだったんだもの!」
「多少形がおかしいのも味だよ。むしろこういう方が作り手の苦労が分かる」
顔を赤くする彩鴇を歌仙がなだめる。
「ちゃんとおいしいですよ、あるじさま!」
今剣の満面の笑顔に面映ゆいような、誇らしいような、料理をしてこんな気分になるのは初めてだった。
「ご馳走様でした」