第6章 料理は時代とともに変わるもの【信濃藤四郎、歌仙兼定他】
数年前ー
「こ、これは一体、何なんだい!?」
食卓に並んだ料理の数々に、いや、その料理の作り方に歌仙兼定は絶句した。
レンジとかいう奇妙な箱に成形された材料らしきものを入れると、温まって出てくるのだ。
他にも同じ鍋で調理し、火加減も焼き時間も同じなのに、違う料理が出来上がってくる。
奇怪この上ない。
この疑問を彩鴇にぶつけるとこんな返答が返ってくるのだ。
「だってもともとは大豆だし、簡単に調理できるように加工してあるんだから、当然でしょ?」
信じられない。
四季折々の旬の食材を素材の味を活かしながら料理に仕上げる。
それが日本の、和の心ではないのか。
「まさか、畑に蒔いた種も……?」
「え、全部大豆だけど」
「今すぐ他の野菜も育てるんだ!収穫した暁には、僕が本当の料理というものを教えてやる!」
この時歌仙の心は決まった。
大豆まみれの生活に終止符を打ってやるのだと。
「これだけあれば、おにぎりくらいなら作れますかね?」
堀川国広が手際良くお米を研いでいる。
収穫まで待っていられないとばかりに歌仙が政府から取り寄せたお米だ。
当の歌仙は手合わせのため、道場にいる。
「お米って本物も白いのね」
彩鴇は興味深そうに堀川の様子を覗き見る。
ずっと大豆を食べて育ってきたので、他の食材はほとんど見たことがない。
もちろん大豆加工品の白米やお寿司は食べたことがあるので、色や形は知っているのだが、歌仙が言うには本物は味は当然ながら、香りも違うらしい。
「それを茹でたらご飯になるの?」
「炊くんですよ。鍋にお米と水を入れて、30分くらい置いてから火にかけるんです。強火で吹きこぼれてきたら、火を止めて15分蒸らして完成です」
準備完了、火をつけるのは30分後になる。
その間に何か作れるといいのだが、他は彩鴇が持ってきた大豆食品しかない。
どれも短時間で完成してしまうので、今から作り始めると食べる頃には冷めてしまう。