第2章 安土城での暮らし
朝餉の刻になり武将たちがわらわらと広間に集まって来た。そして最後に入って来た信長は上座に座る。
信長が食事を口に運ぶのを見届けた秀吉も食べ始めた。
「ククク。秀吉、貴様は真面目だなあ」
「お前には言われたくないな」
「ほお」
光秀の言葉にいやいや答える秀吉に、光秀は揶揄うように口の端を上げる。
「それで家康、あいつはどうした? 見かけんが……」
睨みつけてくる秀吉を無視して、光秀は家康に問う。
「さあね、俺が知るわけないじゃないですか」
家康の返答にカバーしようと舞が口を挟む。
「ああ、天月ちゃんは気分が悪いからって……」
「ほう」
「え、そうだったのですか?」
光秀はあまり納得していないのか疑わしそうに瞳を細め、三成はその端正な顔を歪ませた。
「部屋に籠もっていた方が信長様の安全は保障される」
「おいおい、またそんなこと言って」
秀吉は良い気味だと言うよううに鼻を鳴らし、政宗は軽い口調で笑っている。
皆が口々に話していると、上座で静かに食事をしていた信長から声がかかった。
「舞」
「はい」
「食事が終わったら天月をここに呼べ」
「え、はい」
少し困惑気味に返事をした。
「失礼いたします」
その静かな声に大広間に残っていた武将たちは、一斉に襖を見やる。
「入れ」
信長の威厳のある声に襖を開け、一歩一歩確かな足取りで歩き、信長の目の前で腰を下ろした。
「私目に何か」
「ほお、場はわきまえているようだな。貴様はまあ良いか。今夜俺の部屋へ来い」
「は? それは一体……」
「の、信長様、まさかこの者に夜伽を命ずるのでは!」
秀吉の言葉に信長は、さも可笑しそうに笑った。
「ははは。それも良いな、どうだ?天月、今夜俺の夜伽をせぬか?」
「お断りさせていただきます」
ニコリと笑い、きっぱりと断りを入れる天月に秀吉は声を上げる。
「お前、信長様の誘いを断るとは」
「え」
舞は一瞬見せた天月の表情に目を奪われた。
(一瞬、無表情になった? 気のせいだよね?)
天月は何事もなかったかのようにいつもの笑みを浮かべているばかりで、彼女の表情が変わったことに誰も気付いてはいないようだ。
ニコニコしながら秀吉を見てから、信長に顔を戻した。
「……はい、了解しました」