第2章 安土城での暮らし
その日の夜、信長のいる天守閣に向かう。
「天月です」
「入れ」
「失礼いたします」
すっと襖を開いた先には、織田信長がいていつもの如く笑みを張り付かせた。
「それで私に何か」
「これだ」
信長が引き寄せたのは碁を打つ台で、真意を探るように信長を見つめる。
「えーっと……」
「お前碁はできるか」
「ええ、多少は」
「ならそこに座れ」
信長の迎えに座り碁石を並べる。
「お前は……」
「私は白を使ってもいいでしょうか?」
「ああ、構わんが」
信長の言葉に被せるようにして言い出す天月に、訝しげに両眉を寄せた。
静かな部屋に碁石の音のみ聞こえ、互いに何も発しない。そして碁石を打つ度に信長の顔つきが変わっていった。
「、どうやら、わたしの勝ちのようですね」
ニコリと笑っている天月に、感心したのか碁盤の上野碁石を見つめる。
「ほう。貴様、一体誰に習ったのだ?」
もちろんその問いには答えず、さも珍しそうに部屋の中を見渡す天月
「信長様のお部屋、かなり高価なものばかりなのですね」
「……ふっ、当たり前だ」
「さすがは信長様」
「………はあ、まあ良い下がれ」
襖を閉める際、彼女の背に言葉が届く。
「次は負けぬぞ、天月」
「望むところです」
「天月様」
自分の名前を呼ぶ声に振り向くと、目の前まで歩いてくる三成。急いで笑顔を取り繕い笑いかけた。
「三成さん、どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、お見かけしたので」
「……っ、おや、そうでしたか」
「天月様、今日は何か予定ありますか?」
首を傾け三成を見つめる。
「……いいえ」
「それならば私と….」
「よお、天月ぢゃねえか」
真後ろからの声に振り返ると、伊達政宗がこちらを見下ろしていた。
「……」
「俺は、伊達政宗だ。よろしくな」
「はい。こちらこそ宜しくお願いいたします」
「三成こいつ借りるぞ」
「あ、はい」
政宗の後ろを歩いていると、不思議そうに政宗は首を向ける。
「……なんでしょうか」
「ははは。お前は真面目だなあ」
「はい?」
よくわからないと首を傾けると、前で歩く政宗は豪快に笑い始める。
「あははははは」
「…………っ!」
「ははは。いや、なんでもないんだ悪い悪い、はははっ!」
「……はあ」