第4章 合せ鏡
「じゃあ天月様は絶対にここを動かないでくださいね。迷ったら大変だから」
「はーい。行ってらっしゃーい」
そう言い緩く手を振り見送った後、体の向きを変え小さな祠に足を向け、祠の横に視線を向けながら歩いていると何かに足を取られ前転するように地面に倒れ込んだ。
「いってえー」
仰向けのまま伺うと、僧衣を着た男性が小さな祠の前に屈み込み静かに手を合わせているところだった。
「……お前はそこで一体何をしているのだ?」
呆れ顔で私の顔を見つめる男性は、この前路地で顔を合わせた人だ。全然気づかないどころか、彼の気配すら感じなかった。
「あなた生きてますよね?」
「……は」
「ああ、先週ぶりですね。ご機嫌はいかがですか」
「……お前は騒がしい挨拶しかできんのか」
「すみません」
「はあ、まあいい。それでお前は……何故ここにいる?」
「それが、方向先の人と休憩中の散歩中で……」
体を起こし立ち上がり、男性の顔を見上げた。
「……」
「なんですか」
ニコリと微笑みながら首を傾ける。
「いや、また会うとはな。君の悪さすら感じる」
「気味の悪いのは多分……私のせいではないかと」
「……」
「いえ、別に」
「まあいい、私は帰る」
だが男性は一度足を止め振り向く。
「一つ忠告しておこう、この近くにある町には近寄るな」
「は……?」
「ではなお嬢さん」
男性は今度こそこの場から立ち去った。
男性の見ていた方に顔を向けると、遠目でもわかるほどあちらこちらでもくもくと煙が上がっていた。
「天月様!?」
「天月ちゃん」
引き返して来た蘭丸に指示を送る。
「蘭丸、あそこで煙が上がっています。あっちは織田の領地ですよね」
「うん」
私は先導を走りながら、祠の前で手を合わせていた男性に舌打ちを溢した。
森を抜けるとそこは戦火のしく、人々の悲鳴が町中に響き渡り。飛び交う銃弾、風に乗って血の臭いと焼け焦げた臭いが、鼻を襲う。
「舞、しゃがめ!」
天月の鋭い声にしゃがみ込んだ舞の頭上を縦断が過ぎ去った。
急いで怯えている舞の腕を掴み、この戦場と化した町を走り抜ける。
「死にたくねえなら、死ぬ気で走れ」
「……う、うん」
「2人には見せたくなかったんだけどな……」
その蘭丸の呟きに鋭い視線を流した。