第2章 安土城での暮らし
安土城の広間では天月を囲むように武将たちが座っていた。
「貴様、名はなんと申す」
上座に鎮座している男に問いかけられる。それにニコリと笑みを浮かべ名を告げた。
「天月と申します。以後お見知り置きを」
「ほお」
「信長様、まさかこの正体のわからぬ者をこの安土に置くおつもりですか」
「秀吉、何か不都合でもあるのか」
「当たり前です。もしも信長様に何か….」
「黙れ秀吉!」
秀吉の言葉に気を悪くしたのか、信長の声が鋭さを含む。
「申し訳ありません」
ぐっと言葉を詰まらせ秀吉は神戸を垂れた。
「よし天月、貴様は三成の周りの世話を命ずる」
その信長の言葉に微かに目を見開き首を傾けた。
天月の今後のことも決まり広間を出ようと腰を上げた時、青年に声をかけられる。
「……」
「天月様、宜しくお願いいたします。私の名前は、石田三成と申します」
優しげな笑みを浮かべる三成に笑みを返した。
「はい、こちらこそ」
場内の中はかなり広く、真面目に案内してくれる三成には悪いが一生覚えれそうにもない。
「えっと、あとは……」
「あの、三成様」
「はい」
振り返り優しく声をかけてくれる彼に、困りながら眉を寄せる。
「申し訳ないのですが、これ以上は覚えれそうにもありません」
「……あ、すみません。気が回らずこちらこそ申し訳ありません。ああ、それと天月さま」
「はい?」
「私のことは三成とお呼びください」
「え」
「どうも様付けは慣れなくて」
三成は困りげに微笑む。
「……それじゃあ三成さんとお呼びしても?」
「はい」
思わずほっと息を吐いた。
「ここが天月様のお部屋ですよ」
ある部屋の前で立ち止まり、手で指し示した場所を見て困惑気味に見つめる。
「え、誰かと共同部屋ではないのですか?」
「ええそうですが….」
探りを入れるために三成を見つめてみるが、彼は屈託のない笑みを乗せ疑う様子もなく背を向ける。そんな三成の背を叩こうと右手を振り下ろすがすんでで止まる。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか襖を開き振り返る。
「さあどうぞ」
「三成さん、私はもう大丈夫なので。今日はありがとうございました」
「いえそんなことお気になさらないでください。それではごゆっくり」