第2章 安土城での暮らし
全く塗装されていない道を歩く1人と馬一頭。
もちろん馬上には、家康と舞が乗っている。
馬上を見ると舞がじっとこちらを見ているので、もはや恒例となった愛想笑いを浮かべなんとかその場をやり過ごす。
「ねえ、もうそろそろ交代しよう」
不安気に見下ろしてくる彼女に同意は一切しない。
「私は馬が苦手なんですよ。それに私、歩くのが大好きなんですよ。ほら、足腰も丈夫になりますしね」
「へえ、歩くのが好きって変な趣味の持ち主だね」
家康の素っ気無い言葉が馬上から聞こえてきた。
「いえいえ、どういたしまして」
「別に褒めてないんだけど」
歩いてかなり立った頃、まいが悲鳴を上げる。
「家康さん、もうそろそろ休まない? ちょっと……」
「お尻が痛いようですよ。もうそろそろ休まれてはどうですか? 舞さんのお尻のためにも」
そう言うと赤い顔した舞が反論してくる。
「ちょっ」
「仕方ない、ここで休もうか」
反論しかけた口は、家康の一声につぐまれ嬉しそうに瞳を輝かせ始めた。
馬上から下りた舞は、珍しそうに辺りを見回している。
それを横目で見ながら暖かな風を浴びた。
「……あそこでお茶飲むよ」
家康の言葉にまた嬉しそうに顔をほころばせる。
そのままぼーっとしていると、立ったまま動かない家康。
「おや? どうしましたか? お腹でも痛むのですか」
「あんたは行かないの」
「ああ、私は大丈夫です」
「……そう」
さほど興味がないのか茶屋へ歩き出した。
「……」
自分の近くに誰もいないことを確認してから笑みを崩す。人前とはいえ、ずっとニコニコしているのはさすがにきつい。よくあの人は嘘の笑顔を保ってきたものだ。あまりのきつさに頭を抱える。
今私たちが向かっている場所は安土城で、絶対に織田信長と明智光秀に会うことになる。
「はあ」
マジで湯鬱すぎて布団の中に潜り込みたい。
今は天正10年7月。と言うことは本能寺の編が起こってから1ヶ月後、何故織田信長が生きてるのかだとか、家康があまり怖くないだとかはもう考えないことにした。と言うよりももう解決したようにも思う。
「ほらもう行くよ」
いつの間にか戻ってきていた家康が、私に手を差し出している。