第1章 戦国時代にて
舞が部屋を出る際に厠の場所を聞いてみた。あんのじょう彼女は少しの疑いもせずに連れ出してくれた。
きょろきょろと辺りを見ていると前から声がかかる。
「ここが厠……えっとー」
そう言われ目を2、3度瞬かせながら苦笑する。どうやら腕を気にしているようで身を引かない彼女に微笑みかけた。
「腕なら大丈夫ですので」
「そっそうですよね。じゃあ私はこれで」
騒がしく遠ざかっていく舞の後ろ姿に鋭く目を細めた。
周りを警戒しながら歩く。その足は自分のあてがわれた部屋へ戻るわけもなく、ひっそりと歩いていたが、曲がり角を曲がったところで誰かとぶつかり足を止める。
「す、すみません」
そこには徳川家康がおり、天月の瞳は一瞬見開かれた。家康は天月を警戒しているのか探るかのように見つめてくるので、不安だと伝えるように目を伏せた。
「すみません。迷ってしまって……」
互いに無言になり数秒、先に沈黙を破ったのは家康だった。
「はあ、めんどくさい舞はどうしたの」
その言葉に体を凍らせ2、3歩後ずさる。
「…………」
「………っ」
「早く来なよ、置いてくよ」
「あ……はい」
部屋でぼーっっとしていると、襖が開き家康が顔を出した。一瞬沈黙が流れ戸惑っているうちに家康が目の前に座り箱の蓋を開ける。
「は」
「怪我してるでしょ、いいから見せなよ」
表情を固め黙っていると、無理やり服の裾をめくられ容赦なく薬を塗りたくられた。
「いっっ」
包帯を外し傷口に薬を塗られる際痛みがはしり小さな悲鳴を上げる。そんな彼女に見向きもせず黙々と薬を塗ることに集中している。
「で、なんでこんな怪我したの」
包帯を巻いている最中急に話しかけてきた、
「ああ、山賊にやられまして」
「ふーん」
「もしかして……間抜けとか思ってます?」
「……まあね」
「やっぱり」
小さく呟くと、仕上げにポンッと傷口の場所を叩かれあまりの痛みに腕を抑える。
「いっったー」
「なるべく安静に。 もしも無茶なことしたら傷口開くから」
「……」
「あ、それと……俺に無断で勝手に外に出ないこと」
「もしかして私、怪しまれてます?」
「……うん」
「なるほど。はい、わかりました」
「じゃあそう言うことだから」
そう言ってさっさと部屋を出ていく。どうやらこれ以上長居する気はないようだ。