第1章 戦国時代にて
家康の御殿へ来てから1週間、葵が掃除しているとこを度々目にするようになった。
廊下の雑巾掛けや玄関の掃き掃除、さらには皿洗いや洗濯など。
その姿を少し遠くで見ていると後ろから声がかかる。
「あんたそんなとこで何してんの」
「あ……家康様、彼女一生懸命掃除していらっしゃいますよ。お声をかけてはどうですか?」
家康の質問を無視して別の話題を投げかけると、家康は眉間にしわを寄せる。
「あの子と関わる気ないから。ところでなんで部屋にいないの、さっさと包帯変えるよ」
顔をしかめる天月に呆れながら歩き出す。
「別に、包帯変えずに傷口が悪化してもいいって言うなら、俺は構わないけど……」
「うぐっ」
顔を強張らせながら後ろを歩く。
「ほんとあんたはじっとしてないね。この時間は部屋にいてって言ったでしょ」
「すみません。全然気づかなくて」
また溜息を吐く家康。
「あ、そうだ……明日安土城に行くから準備しといてね。まだ寝てたら置いてくから」
夕方、舞の部屋の前を通ると中で2人の話が聞こえてきて足を止めた。
「舞さん、この戦国時代にタイムスリップして1ヶ月経ったけど、調子はどうかな?」
「それがまだ慣れなくて」
「そっかまあまだ、1ヶ月だからね」
襖を背にしながら口角を上げる。
「ふーん。やっぱりね」
襖の枠に指をかけ一気に開け放つと、2人は驚き目を見開く。
「あ………えっとこれはね……」
「……」
「初めまして、私は天月と申します」
「これはこれはご丁寧に、俺は猿飛佐助と申します」
「あのー、もしかしてさっきの話って…….」
「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」
そう言いながら指でOKのジェスチャーをする。それに目ざとく気が付いたのか、眼鏡の青年が目を細めた。
「よかったー」
ほっと胸を撫で下ろした舞に微笑んだ後、佐助は舞を振り返る。
「舞さん、僕この人と話があるから部屋を退室してもらってもいいかな?」
「…うん」
舞の足音が遠ざかると佐助の表情が険しくなる。それは敵対しているのか、怪しんでいるのか。だが彼に受け入れられていないのは明確で、感情の読みやすい彼に苦笑を見せた。
「忍びがそれでいいんですか? 猿飛佐助さん。まあまあそんなに警戒しないでくださいよ。私たちは仲間ではないですか」
「それはどう言う意味でですか」