第3章 僧侶の疑念
政宗さんからもらったお金は、美味しいお茶とお団子に変わり、私のお腹を満たしてくれた。
ちなみに天月ちゃんは政宗さんと話終えた時にはもう姿はなく、城の中を探してもどこにもいなかった。
(町全部ってわけにはいかなかったけど、半分ぐらいまで見て回れたよね)
改めて地図を確認していく。
(それにしてもこの地図、蘭丸くんのお手製なのかな? すごくわかりやすい)
商店街の並ぶ場所には、美味しいお店*おまけしてくれるなど、細やかなメモ書きが添えてあった。
(スーパーアイドルだと思ってたけど、こつこつ努力してるから皆に信頼されてるんだろうな。私も見習わなきゃ、蘭丸くんのメモを一緒に書いておこう)
私は城下を出る前、巾着に移した手帳とボールペンを取り出す。
そして、手帳に書き写しておいた地図へメモを書き足した。
(これで地図を返しても、後で見返せる。蘭丸くんのおかげで少しはこの時代でもやっていけそう)
書き終えてふと顔を上げると、だいぶ日が傾いていることに気づく。
(そろそろ戻らないと、夜までにはお城に戻れないかも)
背後に聳える安土城に帰ろうとした時ーー
「ぐはっっ……!」
「???」
突如、聞こえた男性の悲鳴にびくりと震える。
(あの路地からだ……)
辺りは夕暮れ時ということもあり、人影が見当たらない。
どくどくと心臓の音が嫌な音を立てて、頭の中で警告音が鳴り響く。
(……きっと近づいちゃいけない。わかってる。わかってるけどもし助けれる命があったとしたら? 見て見ぬふりをして逃げたら私はきっと後悔する)
足にぐっと力を入れ、昨夜のように勇気を振り絞って駆け出した。
恐る恐る路地を除くと、そこには……
「……! 人、が……」
男性が2人、無残な姿になって倒れていた。
(息ができない…苦しい……)
がたがたと歯の根があわず、声すら上げられない。
私は力なく崩れ落ちた。
すると物音に気づいたようで、刀を手に佇んでいた男性がこちらを振り返る。
(この人!)
「けん、にょ……さん」
(本能寺の変の夜、森であった人だ)
なぜ私の名前を……いや、待て、お前はあの時の…
顕如さんは、私をじっと見つめると、はっと目を見張った。
吹き抜ける風の音すら無音に思える。