第3章 僧侶の疑念
振り向いてみると少し離れたとこに、天月ちゃんがいる。
「向こうも、威勢がいいを通りごして煩いですね。はあ………またこの騒がしさが戻ってくるのか」
「俺は、嫌いじゃない。これぐらい活気があった方が仕事も捗るだろ」
「政宗さんはそうでしょうね」
「蘭丸くんって、普段からあんな人気者なんですか?」
(てっきり、無事に戻ってきたから囲まれてるのかと思ったけど……)
「見ればわかるでしょ。女中からはあの通りだし、他の武士も弟分だと思ってるんじゃない」
「とにかく、色んな奴に可愛がられてるなあいつは。お前も話したなら、蘭丸の愛想のよさはわかるだろ?」
「はい」
(昨日初めて会った時も、ちょっと話しただけでいい人だなって思った)
「まあ 愛想がいいだけなら、あそこまでもてはやされないけどね」
「というと………?」
「場内の奴らから信頼されてるってことだ。任された仕事は期待以上にこなすからな」
「そうなんですね」
(仕事ができてコミュニケーションも高いなんて、ビジネスマンの鏡だ。蘭丸くんはアイドルじゃなくてスーパーアイドルなのかも)
妙に納得していると、こちらに気づいた蘭丸くんが近づいてきた。
「なになに? 俺の話?」
「そうだよ。人気者だなって話してたの」
「あと、これからまた騒がしくなるって話」
「もー、家康様、ひっどーい」
(ふふ。蘭丸くんと話していると元気になれるな)
「そういえば、舞の世話役指導は蘭丸がやるんだってな」
「はい。適役だろうって秀吉さんが」
(蘭丸くんのことすごく信頼してたな秀吉さん。反対に、私はまだ全然、信用してもらえてなかったけど)
「本当に大丈夫なの?」
家康の言葉に蘭丸が自信満々に答えた。
「もちろん。俺がばっちり教えるね。舞様!」
「ありがとう」
その時、蘭丸くんは何かを思い出した様子で懐を探り……
「これ渡そうと思ってたんだー」
取り出した物を私に差し出した。
「鈴?」
手のひらにころんと乗せられた鈴はちょっと古ぼけているけど、丁寧に扱われているのがわかった。
「困ったことがあったら鳴らしてね。俺、すぐ飛んでくるから!」
蘭丸くんは、パチンと愛嬌のあるウインクを飛ばす。
試しに鈴を揺らしてみると……ーーーちりんと可憐な音が響いた。
)なんだか落ち着く音だな)