第3章 僧侶の疑念
廊下を歩いていると曲がり角で誰かとぶつかった。
「……」
「わっごめんね。怪我ない?」
「え、ああはい」
「よかったー、君とは初めましてだよね? 俺森蘭丸っていうんだ。よろしく☆」
明るく高い声に呆気に取られ表情が元に戻るが、急いで笑顔を取り繕いあいさつを返した。
「初めまして私は、天月と申します」
「天月様よろしく☆」
ぐっと言葉に詰まり笑みが消える天月を遠目で見つめる舞がいた。
「……」
私は天月ちゃんに近づこうとしたが、完全に笑みの消えた天月ちゃんは雰囲気ががらりと変わり、優しげな表情がなくかなり怖い。
(……うーん、城下へ散策に行こうって誘いたいけど……どうしよう)
凄く嫌です。と顔に書いてある天月ちゃんの視界に入るように、蘭丸くんの隣に立ち話しかけようと口を開きかけた時……
「蘭丸様ー!」
「!」
廊下の前から黄色い声が響いてくる。
(今、「蘭丸様」って言ってたよね。ということは……)
足を向けると案の定、女中さんたちに囲まれていた。
「無事にお戻りになってよかったです!」
「私たち、とても心配しておりました!」
「みんなありがとう! 俺、これからはもーっと頑張るからよろしくね♪」
「はい!」
(蘭丸くん、すごい人気……
朝からずっと思ってたけど、復帰したアイドルみたい)
今朝から小姓に戻った蘭丸くんは、歩くだけでいろんな人に声をかけられ、城内の各所でひっぱりだこだった。
(昨日信長様が言ってた蘭丸くんの才能って、コミュニケーション力だよね。確かにこれは立派な才能だ)
少し離れたところで蘭丸くんたちを見ていると……
「へえ、復帰早々威勢がいいな」
後ろから聞こえた楽しげな声にはっと振り返る。
「……政宗さん家康さん」
キラッとした政宗さんの目や、家康さんの冷たい雰囲気を思い出してつい身構えてしまう。けれど2人は私を気にする様子もなく、そばまで歩いてきた。
「へえ、覚えてたんだ。色々足りてなさそうだったから、すぐに覚えれないと思ってた」
「そ、そんな失礼なことしません」
「家康はこういう言い方しかできない奴だが、悪気はない許せ舞」
「はい……」
ふと家康さんを見ると、私の後ろに視線を注いでいることに気づいた。
「……?」