第4章 願い
リドルには分からなかった。確かに自分は孤児院で育ち、両親の愛も知らず育ってきたが、家族の絆というものは、こんなにもあっけなく切り離せるものなのだろうか。
それにアリスを――あんなに大事にしていたアリスを悲しませるような真似が出来るものなのだろうか。
「……何故だ?」
「何だ?言いたい事があるならハッキリ言え」
「何故アリスの母親を殺した!?アリスが苦しむのを知っていて!!何故だ!!」
リドルはコルウスの胸倉をつかんだ。身長的にはコルウスの方が上でも、気迫はリドルの方が上だった。血のような赤い瞳で、リドルはしっかりコルウスを睨みつけた。
そんなリドルを、コルウスは氷のような冷たい視線で見つめていた。
「何故俺がアリスの母親を殺したかだって?」
まるで汚いものを振り払うかのように、コルウスはリドルの手を力づくで撥ね飛ばした。
「そんなの、邪魔だったからに決まっているだろう」
「――本当、なの?お兄様……」
背後から、弱々しい少女の声が聞こえた。――他の誰でもない、アリスの声だった。
いつの間に目を覚ましたのだろう。アリスは医務室の扉を少し開けて、こちらを見ていた。その瞳には恐怖が宿っていた。
無理もない、今までずっと信じ続けていた兄が自分の母親を毒殺したなんて話し、にわかに信じられるものではない。
だが、今はっきりと本人の口から事実を聞いてしまったのだ。そのショックは計り知れない。
「嘘でしょう?お兄様、ねえ……何か言って」
「アリス……お前いつの間にそこに……」
「ねえ!本当の事を言ってよ!!お兄様!嘘だと言って!!!」
「落ち着くんだアリス、じゃないと心臓に負担が――」
そう言うなり、再びアリスの呼吸が荒くなり、とうとうアリスは立っていられなくなりその場に倒れた。意識はなく、額にびっしり脂汗をかいている。