第4章 願い
自分でも気づかぬうちに、リドルはアリスと自分を重ねていた。同じくスリザリンの血を引きながら、財産と呼べるものは何も持っておらず、父親に捨てられ、挙句の果てに母親まで死んだ。
母の死を知って嘆くアリスに、なんと言ってやればいいのだろう。今まで情と言うものを持ち合わせてこなかったリドルには掛けてやる言葉が出てこなかった。
「お母様……具合が悪いとは言っていたけど、まさか……まさか、こんなに早くに、逝ってしまう、なんて……」
泣いていたアリスの呼吸が、だんだん乱れてきた。苦しそうに胸の辺りをぎゅっと握り、うっすら汗をかいている。以前ふくろう小屋で見た時と同じ、心臓病の発作だ。
リドルは咄嗟にアリスを抱きかかえると、その体重の軽さに驚いた。それに肩も細くて、強く握ったら折れてしまいそうだ。
とにかく医務室に連れて行こうと、リドルはアリスを抱きかかえたまま、慎重かつ迅速に医務室まで走って行った。
「お、兄……様。お兄、さ、ま……」
朦朧とする意識の中、アリスは兄の名を繰り返し呼んだ。一刻も早く医務室に連れて行かなければ。焦るリドルに体に緊張がはしった。
医務室に着くと、急いでマダム・ポンフリーを呼んで例の水薬を飲ませた。すると乱れていた呼吸がだんだん治まり、やがて再び静かな眠りについた。するとその時、医務室のドアを乱暴に開ける音が部屋に響いた。
「先生!!妹は!?アリスは大丈夫ですか!?」
知らせを聞いて授業を抜け駆け足で来たのか、コルウスは肩で息をしていた。マダム・ポンフリーが薬で眠らせたことを知らせると、コルウスは急いでアリスの眠るベッド際に行って、椅子に座って妹の髪を優しく撫でた。
――本当だろうか、アリスの母親が死んだのはコルウスの作った薬が原因だと。いくら継母がマグルだからって、アリスが悲しむ真似をする男だとは思えない。
矛盾を感じたリドルは真相を確かめるべくコルウスを医務室の外に連れ出した。
「いったい何の用だ?」
「本当なのか?病気の薬と偽って毒を盛っていた事は」
「ああ、その事か」
コルウスの端整な顔が狂喜に歪んだ。