第2章 ちぐはぐな街
「おはようございます、阿伏兎!」
「あぁおはよう」
元気にあいさつするも、阿伏兎はめずらしくこちらを見ずにあいさつした。
機嫌が悪いのかな?
「今回もがんばりましょうね」
とりあえずそう言って阿伏兎の後ろを歩いていると、阿伏兎はぼそりと言った。
「そうだねぇ。今度はがんばってちゃ~~んと20人やるんだぞ」
その言葉に私は背中がひやりとした。
気づいてた…!?
私は驚いて立ち止まると、阿伏兎は振り向いて言った。
「いつまでも騙せるほどあの人は馬鹿じゃないぞ。
傘を振っていないことがばれたら今度こそ殺される。わかるだろう?」
「…でも…!」
この傘を振えば私は夜兎として生きなくてはならなくなる。それは嫌だ。…阿伏兎が夜兎な手前そうは言えなかったが、阿伏兎は私が傘を振わない時点で気付いているだろう。
「お前は言ったよな?『生きたい』と。
一日でも長く生き永らえられる一番の方法、わかるだろう?」
阿伏兎は私が背負っている傘を見て言う。
「『これが一番いい選択だと思っている』とも…言ったよな」
「はい…」
でも、実際こうして突きつけられるとどうしても決断できない。
だって、私は夜兎ではないから。
「…何も、考えるな。ただ生き永らえる方法だけを考えるんだな」
「…はい」
うなずきながらも、心はどこかほかの場所にあった。