第9章 夜明け前(仮題)
「…貿易がしたい?」
次の日、私は神威に報告した。
今日は珍しく真面目に仕事をしているようで、正直すっごく驚いた。あんなに嫌がってた雑務を。
神妙な顔をしてみていると、神威は小さくため息をついた。
「俺、昨日休暇あげるって、言ったよね?」
「はい。しっかりばっちりきっちりお休みさせていただきました」
「じゃあ、どこでこんな契約書もらってきたの?」
珍しくイライラしている。やっぱりなれないことをしているからね。
「えっと、繁華街を歩いていたら」
「もっとマシな嘘ついたら」
いや、嘘じゃないんです。なかなか信じてもらえず、阿伏兎に救いを求める視線を送ったが、ふい~とそらされてしまった。
その上、
「団長が正しい」
と、ばっさりときられてしまった。
「本当なんですって!私だって、なんだかよくわからない展開にびっくりしたくらいなんですから!信じてくださいよ!」
どうして二人とも微妙に怒っているのかわからないけど、信じてもらえないのもくやしい。
「もう、いいよ。
で、なんで、そいつは那美の所にきたの?」
「『この町と』取引がしたいんだそうです。ハシモトでも、春雨ともではなく」
「ふぅん…」
神威、少し興味を持ったのか、契約書をじっと見ている。
「『坂本辰馬』ね…なんか、おもしろいね」
そう言って、その契約書にバンッと印鑑を押した。