第8章 つかの間の愛
さらにときは流れ。
私と土方さんは一緒の床につき、一緒に起きるような仲になった。
土方さんの腕の中でゆっくりとまどろみ、起こさないようにそっと腕枕をはずす彼の動きで目を覚ます。
「いつも起きるな…お前」
申し訳なさそうな声の土方さん。
「寝てるフリしてようかと思ったけど、朝は一緒に起きようかなと思って」
「早番の日は別に無理しなくてもいい」
まだ薄暗い中、土方さんがシャツに腕を通すシルエットが見える。
「…少しでも、一緒にいたいから…」
いつ、この生活が終わるかわからないから…。
そんな私の想いが伝わったのか、不意に土方さんにやさしくキスをされた。
なにか言いたそうな顔をしていた。私も何か、漠然としたなにかを伝えたいけど、うまく言葉にできない。
唇を放し、触れるか触れないかの距離のままお互いしばらくかたまっていたが、私の頬を掴み、コツンとオデコをぶつけたあと、
「行ってくる」
と、土方さんは言って部屋を出て行った。
今日も昼の買出しのためにスーパーに歩いてやってきた。
おなじみのホイコーローにしようか、さすがに週一は多いかとか考えながら青果コーナーをウロウロしていると、
「また、あのクスリ、流行りだしたらしいわよ」
「ああ、『桃蜜』とかいう果物みたいな名前のやつでしょ!怖いわね~」
おばさまたちがそんな会話をしていた。
『桃蜜』。
まぎれもなく春雨のクスリの名前だった。
誰か、私の変わりに地球に赴任して、新たなシンジケートを確保したに違いない。
長いこと封印していた記憶。
そして…
終わりの予感。