第7章 胡蝶の夢
この人…なんか。
ほかの人とちがう。
一目見てそう思った。
「おいおいおいおい、どこの星のヤツかしらねえけど、万年発情期ですか。ぎゃーぎゃーぎゃー不機嫌巻き散らかしてからに」
「銀さん!」
どうやらめがねの少年の知り合いのようだ。
「ああん?」
さらに怒りをたたえたトカゲの瞳は、緑から赤に変わった。
彩球族。
たしか阿伏兎から聞いたことがあった。怒り狂うと目の色が変わって暴れまわる一族だ。
「銀、さん?
あれ、危ない一族です。気をつけてください」
こんなところで目立ちたくなかったけど、最悪戦うしかない…と思っていたところ、銀さんはその辺に落ちていた空き缶を持っていた木刀でゴルフボールの要領で打ち始めた。
かーーーん!
見事に顔に直撃。
彩球のトカゲは顔まで真っ赤にしてこちらに向かって走ってきた。
そこにもう一発、カーン!とやると、なんとトカゲの口にクリーンヒット。
見事にはまってのたうちまわっている。
「銀さん、えっと、おねえさん、逃げましょう!」
「え、もういいいの?もういいの?」
めがねの少年がせかすように言っているが、銀さんは何発か打ち足りないようで何度も聞いている。
「もう、事件になっちゃいますから!」
「あ、それはまずいです!」
と、私も便乗。
走りにくいので、もう裾まくっちゃえ!
「わあ、ちょっと、おねえさん、それは…」
けっこうだいたんにまくってしまったため、少年には少し刺激が強すぎたようだ。
「ごめんね、少年!私はお先に逃げますね!」
そう言ってそのまま高くジャンプして屋根の上に飛び上がり、家々を伝って人気のないところへと走った。