第7章 胡蝶の夢
ふぅ…
朝、新集会室にやってきた団長は深いため息をついた。
まだその表情は晴れない。
「夜原の残党の件なのですが、残りの拠点の情報は結局聞き出すことができませんでした」
「そう…」
報告する私の顔を、団長は難しい顔をして見つめてくる。
「何か?」
「いや…、なんでもない。引き続きハシモトのことは洗うことにしよう」
そう言って窓の外を見た。
ここはもともとハシモトがすんでいたタワー。そのまま譲り受け、ハシモトに料理を振舞われたあの最上階の部屋をそのまま集会室にした。
一面ガラス張り、真下には色とりどりのネオン街が見える。
「那美は、どこから来たの?」
街をぼんやりと眺めていた団長が、不意に尋ねてきた。
「どこ、から…?」
ドキリとした。
今までそんなこと聞かれたことがなかったし、必死すぎて思い出す暇もなかった。
「……それを聞いて、どうするのですか?」
思い出すと苦しくなる。
昔のこと、あっちの世界のことを思うと。
望郷の思いはいまだ強いけど、私はもう帰れないと思っている。いろんな意味で。
「聞きたいと、思ったから」
団長はゆっくりとこちらを振り返った。
そんな団長が、一瞬、子どものように見えた。
本当はあまり答えたくなかったが、幼い子どものような視線に、思わず答えてしまった。
「日本という国です。…きっと、誰も知らない」
私しか知らないあの美しい国。
幼いころの思い出、無垢だった自分、すべて置いてきたあの世界。今は、ただの幻。
「そうなんだ…」
それを聞いて、再び神威は窓の外に視線を戻し何かを考えているようだった。