第6章 特別編
万斉さんの運転する車の中で、高杉さんはしきりに左目を押さえていた。
どうしたのだろう。怪我が痛むのだろうか。ときどきまた子さんが心配そうな顔するが、何も言わずに目を伏せる。
おそらく目のことには触れないほうがいいのだろう。
ここは砂ばかりの星。
コスモターミナル(空港)の近くは大都会だったものの、少し車を走らせればこの通りの不毛な土地が広がっている。
(まあ、こういう場所は慣れたものだけれどね)
いつもは徒歩なので、車があるだけありがたいもの。
文句を言うならば、走るとガチャガチャと五月蠅い音を立てることだろうか。
「これがいいんでござるよ!」
非常にロックでござろう、という万斉さんの気持ちは一切分からない。もちろん他のメンバーからは不評である。
「くっそー。万斉先輩は…日ごろから思ってたんだけど悪趣味ッス」
「お前に言われたくないピンク女」
「誰がピンク女ッスか!!」
「まあまあどっちもどっちってことで」
と、私は喧嘩を止める。だってこんな五月蠅い車の中で言い合いされたらもっと五月蠅いのよ。
「あたしは悪趣味じゃないッス!!!」
「いや・・・えっとまた子さんは可愛いですけど、ね…」
普段可愛いとか言わないので照れながら言うと、また子さんはんぐっと黙った。
こちらも言われ慣れていないのか赤くなってしまった。
「なんですか、薄気味悪いですよまた子さん」
「うるさいロリコン」
こうして車の中は再びにぎやかになっていく。
…そういえばこんなににぎやかになるのって、こっちの世界に来てからなかったなぁ。
向こうの世界でもこんなではなかったか。
そう思うとおかしくて仕方なくなってしまった。
にぎやかな中に、私の声も自然と重なっていった。
「おめえら、少しは静かにしたらどうだ」
最後の最後には高杉さんがすごむ始末(怒ってはいないようだが)。
なぜか万斉さんまでしゅーんとしてしまう。
高杉さん、あんたはマジですげーよ。