第1章 空焦がれ、忍び愛
二人を失ったリヴァイとリリーは己の選択を責め続け、怒り狂った様に巨人を伐倒した。
〝その怒りの矛先を巨人に向けろ″
エルヴィンからそう告げられ、二人はそうするしか術が無かった。
今の今まで、ずっとそれを忠実に生きてきた。
「明日のエレンの硬質化実験、上手くいくと思う?」
「…さぁな。今言えるのは、失敗すればこのクソみてぇな現状が続くって事だけだ。」
「……ねぇお兄、この壁の中は地下街よりずっと広いよね?」
「…わかりきってる事聞くんじゃねぇ。」
「…地下みたいに泥水を飲む必要なんて無いし、食べ物や金銭の奪い合いで殺しを働く事も無い。地上に上がって来れば私達は自由になると思ってた。」
「……。」
「でも結局外には巨人がいて、壁の中には敵がいる。こんなクソみたいな展開になると思ってなかったよね、ホント。」
「…クソって言うな。」
「あはは、ごめーん。……あのねお兄、私、あれから何回も空を見てみたんだけど、あの日より綺麗に見えた事なんて一度もないんだ。…全部終わったら、また綺麗に見えるようになるかな…?」
「昔っから俺達はクソな状況に慣れてる。だが今はこの現状をどうにかするしか方法がねぇ。どんな場所だろうがどんな状況だろうが、俺はお前が生きてたらそれでいい。」
「それも、そうだね…。」
リヴァイはもう、イザベルとファーランの時の後悔や過ちを二度と繰り返したくは無かった。
特に、リリーだけは……
(失ってたまるか)
リリーもまた、同じ気持ちだった。
次の日のエレンの硬質化実験は失敗に終わった。
そしてその数日後、エルヴィンから一通の便りが山小屋に届いた。
指示書の内容は、敵がこの山小屋を突き止めた可能性が高く、一刻も早くその場から離れろとの事だった。
新リヴァイ班は荷物をまとめ、山小屋を離れた。
エルヴィンの言った通り
何者かが数人、山小屋の周りを取り囲み始めている。
「中央憲兵なんでしょうか…?」
「どうだろ。けど危なかったねー。まぁもし囲まれてても全員殺してただろうけど。」
「…リリーさんならマジでやりかねねぇな…。」
ジャンが苦笑いする。
もし一歩でも遅ければ、寝首を掻かれていただろう。