第1章 空焦がれ、忍び愛
「はい、水。飲んだら吐きやすいから。」
「あ、ありがとゔございますっ…。」
リリーは木陰で嘔吐するアルミンに声を掛ける。
リヴァイ班は何とか森の中の厩舎へ逃げ切る事が出来た。
おそらくアルミンは人を殺したのだろう。
罪の意識に苛まれて嘔吐しているのだろうが、リリーの内心はそれどころでは無かった。
「リリーさんも、こうなったんですか…?」
「ん……?あぁ、私はならなかったよ…。」
やらなきゃ殺られるから。
リリーは人を殺した時の鈍い感触も、罪の重さを受け入れた事も、今まで一度も無かった。
「ッ…すみません…リリーさんは地下街出身でしたね…。すみません…。」
「大丈夫だよ…さ、吐いて。」
アルミンの背中をさすっていたリリーに、厩舎からやって来たジャンが声を掛ける。
「リリーさん、リヴァイ兵長が呼んでます。」
「…行かない。気持ち悪くて吐いてるって伝えて。」
「え…?」
どう見ても平気なリリーの様子にジャンは戸惑う。
「や、やっぱり行く…。ごめんねジャン。」
「い、いや、大丈夫です。俺が上手い事言っときます。何かあったんですか?」
ジャンは、初めて見せる上司の様子に驚いた。
いつもリヴァイの前以外冷静沈着なリリーが、取り乱しているように見えたのだ。
「…何かって?何で?」
「その、初めて見るので…リリーさんのそんな姿…。」
「…え?あぁ、いや、そう言えば今日お兄の誕生日だなーと思って。」
「本当っすか?!」
「うん。だからサプライズしたくってさー。」
誕生日という事は事実だが、正直それどころでは無い。
だが弱った顔を部下に見せる訳にはいけないと思ったリリーは、咄嗟に笑顔を作った。
ジャンの顔がカァーっと赤く染まる。
「お、俺、協力しますっ!」
「ほんと?助かる。」
「あいつらにも言っときます!リリーさんは何もしなくていいんで、休んどいて下さい!」
「ジャン。俺はリリーを連れて来いと言った筈だが?」
手当の終わった上半身裸のリヴァイが厩舎から出てくる。
「…ッ!!兵長!」