第1章 プロローグ
お客さんの9割は女性客で、皆手にはペンライトを握っている。
戸惑いを隠せないまま最初の注文を済ませると、照明が徐々に暗くなっていった。
「始まるよ」
先輩の呟きに前を向くと、ステージの幕が上がっていく。
激しい音楽と共に沸き上がる歓声。
姿を見せたその人達は、迫力のある歌とダンスで会場を魅了していた。
Breakin' it faster!!!ーーー
「キャー!!黒曜ーー!!!」
今にも身を乗り出しそうな先輩を横目に、私はステージへ釘付けになる。
今までテレビでしかアイドルやバンドを見たことが無かった私にとって、このステージは体に電流が走ったような衝撃を与えた。
生のパフォーマンスってこんなに凄いんだ...
ステージが終わり幕が閉じても口をポカンと開けたままにしている私を、先輩は笑いながら小突いてきた。
「ちょっとどうしたのよ舞美ちゃん!完全に取り込まれてるじゃん!」
最初はあんなに嫌がってたのに〜!と、先輩は涙が出るほど笑っている。
こんなにかっこいいと思わなかった。
プロって凄いんだな...そんなことを思っていると、さっきのスタッフさん...クーさんが注文していない料理を持ってこちらにやってくる。
「これ、初めてのお客さんへお店からのサービス。ちょっとしたものだけど、良かったら食べてね」
「あ、ありがとうございます...!」
慌ててお礼を言うと、あの優しい笑顔を向けてクーさんは去っていった。
「ね?このお店、ステージもサービスも最高でしょ?」
貰った料理をつまみながら、先輩のお酒はどんどん進んでいく。
「先輩、そんなに飲んで大丈夫ですか?」
「大丈夫だって!どれどれ次のステージは...あ!チームBだって!チームPだったミズキが発足したチームだよ。見るの初めて〜!楽しみ!!」
声が大きくなる先輩へ冷たい視線を向けると、再び照明が暗くなっていく。
私はこの時、思いもしなかった。
人生で初めての
恋に落ちることなんて。