刀剣乱舞/Manus in manu~手に手をとって~
第45章 大倶利伽羅の憂鬱
「ふふ、主ちゃん遠慮してるのかな…伽羅ちゃん行ってあげなよ。最初から主ちゃんの部屋に戻るつもりだったんだよね?」
「ああ…」
「主に宜しくな」
光忠たちの声を聞きながら障子を開けると、驚いたように俺を見上げてからバツの悪そうな顔をした彼女の姿。
「ご、ごめん…邪魔しちゃった、かな…」
「別に…丁度戻るところだった」
「え、ほんとうに…?」
気にしているのか部屋を覗き込もうとするこいつを制して、手を掴んだ。
握った手は冷たかった。全く…どれほど廊下にいたんだ。こいつのことだ、審神者部屋を出たはいいが、ここに来るまでに迷いに迷ったのだろう。
押し入れに仕舞ってあった修行前の赤い腰布。今は使わなくなったそれをこいつの肩にそっと被せる。
「これ、……まだ持ってたんだ」
それを懐かしむように手に取りしばらく嬉しそうにしていたこいつだったが、ふと何かを思い出したように布のある一部分を見た。
「あ……」
握られた場所を覗き込むと、それは前にこいつが繕ってくれた不格好な縫い目だった。
「懐かしい…そして本当に下手…」
「そうだな」
「もうっ……!私が手を加えちゃうと手入れしても残っちゃうから嫌だったのに…」
「俺はそれが欲しかった」
「え?」
「何でもない……そら、戻るぞ」