刀剣乱舞/Manus in manu~手に手をとって~
第45章 大倶利伽羅の憂鬱
「主のところに戻るのか?」
「…」
何も答えない俺に、なら主に宜しくな〜と手をひらひら振る国永に背を向けたまま、執務室に向かって歩き出す。あいつはもう寝ただろうか。
執務室に着き襖を開けようと手を掛けた時、中から話し声が聞こえた。
「国広くん…いよいよ明日だね」
「時間が経つのは早いものだな…」
「本当に…これ、修行道具」
「ああ」
「明日、本当に行っちゃうんだね…」
「俺は……もっと強くなりたい」
「…うん。手紙…ちゃんと送ってよね」
今俺が入るのは明らかに無粋だな…あいつも…山姥切と色々と話したいことがあるはずだ…
俺は踵を返し、今ほど歩いてきた廊下をまた歩く。
国永と酒を酌み交わしていた時には感じられなかったが、今は肌を撫でる風が少し冷たく思えるのは何故なのか。
頭の中のもやもやが煩わしくて、気を取り直し鍛錬でもと考え、酔い覚ましに厨に水でも飲みに行こうと足を運ばせていると、途中で国永が歩いてくるのが見える。
手には新しく持ち出したのか、先とは違う日本酒。捕まると厄介なので無言で脇を通り抜けようとするが、国永が見逃すはずがなかった。