【進撃の巨人/リヴァイ生誕祭】To my darling
第2章 Happy moment in holy night.
そう、リアのクリスマスの大切な用事とは。
ある曲を一人で弾くことだ。
どこが大切なんだ、と思うかもしれない。
確かに特別と言うようなものではないのだろう。
それでも、クリスマスだけに弾くと決めている曲が、リアにとっては特別なのだ。
曲名と作曲者は不詳で、リアがなぜ知っているのかもわからない。
しかし曲は完璧に覚えていて、楽譜がなくても弾けた。
物心ついたころからその曲を知っていたし、ピアノを習いたいと思ったのも、元はと言えばそれを弾きたかったからだ。
もしなぜ特別なのかと誰かに聞かれたら、リアは答えられない。本当にわからないのだ。
しかし心が大切だと感じていて、クリスマスに──というより、12月25日に弾くべきなのだと理解していた。
それもただ弾くのではなくて、どこか静かな場所でひっそりと、自分と誰かだけが知っていればいいような──。
上手く説明できないけれど、それはリアの中で絶対に譲れないもので。
きっと誰しもが自分だけがわかる価値や譲れないものがあって、それがリアはこの習慣だった、ということだ。
教会に続く道を歩く。リアの吐く息が白かった。
この時期の夜は本当に冷え込む。防寒対策をきちんとして、カイロも貼ったり持ったりしているのに、それでも寒い。
「はぁ、」
途中で一旦止まって休憩する。
教会は丘の上にあるため坂道になっているこの道は、さらに距離も長い。毎回上るたびにうんざりするが、特に冬がそうだった。
少しして息も落ち着いて、リアは再び歩き始めた。