第2章 朝霧―episode zero―
土曜の午後、混雑するコーヒーショップでPCとにらめっこをしていると、
「相席、いいですか」と男性の声がして。どっかで聞いたような既視感のようなものを感じながら、男性の胸元まで視線を上げておざなりに返事をすると、彼はしっとり席に着き、テーブルにコーヒーを置いた。
「すみません、ちょっとだけ、電話させてください」
「どうぞ」
仕事を持って帰ってきたはいいものの、やっぱりわからないところが出てきて仕方なく明智さんに電話をかけてみる。
「御影産業の佐藤です、お世話になっております、あの、あけ…………」
明智さんお願いしますと言おうとすると、相手からの返答がすぐさま返ってきて。
「なんとっ!午後から休みっっっ!」
幾分叫んだから、きっと周りのお客さんは振り向いただろう。
でもそんなことなんかどうでも良かった。電話を切った私の途方に暮れた心は盛大なため息となって口からあふれ出す。
すると、
「俺に用か?」
と、相席している男性に話しかけられて顔を上げる。
よくよく見るとなんていい男だろう……今度は熱のこもった溜息が口から溢れ出た。