第2章 朝霧―episode zero―
「お電話代わりました、明智です」
保留音が止み、低くて艶のある声が聞こえる。初めて電話をした日、受話器越しにこの声を聴いたときは耳が溶けてしまうかと思ったくらいで。あ、でも、この声を聴きたいから彼宛に電話をするのではなくて。
運用ソフトのことでわからない事があったらここに電話を、と指示されていた番号に電話をしたところ、たまたま彼が電話を受けてくれただけの話で。他の担当者とも話をしたけれど、なかなか私の質問を汲み取ってくれなくて。やっぱり明智さんに聞くのが早い、と結論に達してそれからは彼をご指名しているのだった。