第1章 朝霧
申し合わせて決めたわけじゃないけど、初めてのデートの時からこの時間は決まっていて。その時間きっかりにマンションの前で車は止まった。
「今日も楽しかった。ありがとう」
シフトをパーキングに入れ、サイドブレーキを引いて。エンジンをかけたままの車内で、微笑みに乗せて別れの言葉をくれる。
いつもはここで笑ってさよなるするけれど
さっき、あなたに一番響くと思われる言葉をいくつか決めたの
思いの強さはやたらと勢いがあるらしい。だから、心臓が口から出そうだけど、聞いて欲しいの。シートベルトを外して体を彼に向け、
「私、光秀さんのことが、好きです」と、一気に告げた。
すると彼は、読めない表情で静かに深呼吸をして、上着のポケットから何か取り出して
「どうする」
一言告げたあなたは、明らかに男物の結婚指輪をつまんで
読めない表情で私を見つめていた。
選択肢という余地があっても
選びたい方を
選べないよ
「……いじわる」
いびつに手を握りうつむく私を、あなたは抱きしめてくれた