第1章 朝霧
今日は遊園地で思い切り遊んだ
その前はハイキング、
またその前は南京町とルミナリエ。
六甲山も、異人館も、あてもなく大阪湾行って夕陽見たり。数え切れないくらいあなたと一緒に肩を並べて歩いた。
そして今日もまた、恋人たちの歩く通りを後にして走り出した車。
隣には冷やっとするくらいキレのある目鼻立ちの整った彼がハンドルを握り、前をじっと見ていたかと思えば、思いがけない瞬間にこちらを向いて微笑んでくれる。
知り合った時からずっと、私にはもったいない人だと感じてる。
だって、誰が見たって彼は格好がいいのだから。
冷淡で思慮深く、決して愛想は良くないけれど。
私にはいつも優しくて、私だけに向けてくれるその微笑みがすごく好きだった。
だからこうして、たまにあなたを見つめてしまうの。運転に集中してる横顔が、大好きなんだよ。
ぽつぽつ灯りはじめた街の明かりが名残惜しい気持ちを誘って胸が締め付けられる。このバイパスをまっすぐ、トンネルを抜け、歩道橋のある信号を曲がって。
だんだん口数が減り、黙って見つめる車窓はいつも通りに過ぎていく。
こみ上げてきそうな気持ちを流れる景色へ逃がして。
「相変わらず、この道を走り始めると静かになるな」
珍しくそんなことを口にする彼は、信号待ちで前の車のテールランプに顔を赤く染め、頬をすっと撫でて笑ってくれる
「だって、もうすぐさよならだから」
とくんとはねた鼓動は、どこにも行き場がなくて。
私の気持ち、あなたはきっと気づいてるよね
だから、誘えばこうして付き合ってくれるんだよね
小指も、握らせてくれるんだよね
そんな私を見て、優しく笑ってくれるんだよね
デートを重ねるにつれ募る思いを
このまま黙って胸の中へしまっておくことが難しくなっていた。
たとえ、一方通行だったとしても。
今夜は帰りたくない、なんて。ドラマみたいなこと言ってみようか。
私のことどう思ってるの、これは少し押し付けがましい。
あなたの耳に一番響く言葉を探してみる。
そして信号は青に変わり、車は走り出す