第4章 甘い甘い金平糖
「信長様、こいつはっ」
政宗がいうが早いか刀は風をきって振り下ろされ、偽政宗は思わず袖で顔を覆うと袖布一枚スッと切れ、巾着がボトッと床に落ちた。
「貴様、政宗ではないな」
信長の声を聞いてはいるものの、斬られたショックでうまく言葉の出てこない偽政宗はもう一人の政宗に手を取られて立ち上がる。
大丈夫か?と、切られた袖や腕を至極心配そうにしている政宗の胸に、偽政宗は半べそをかいて頬を埋めている。
政宗なら刀を受けるはず。ふんっ、と鼻を鳴らして刀を収め、床に落ちた小さな巾着を拾い上げた信長は、巾着の布越しの感触に思わず中を検めた。
「……犯人は貴様か」
信長の手中にある巾着の穴から金平糖が溢れ落ち、乾いた音を立てた。
「犯人とは……一体なんのことでしょうか?」
今にも泣き出しそうな偽政宗は政宗に肩を抱かれながら信長に問う。
「金平糖を盗ったであろう、隠してあった分もだ」
「あぁ、実験していたら何回か失敗してしまって……それで、結局全ての金平糖を拝借することになってしまいました。返すつもりだったんです、ごめんなさい」
うなだれる偽政宗の言うじっけんとは、聞かなくても一目瞭然だった。まさむねが二人いるのだから。
「政宗になりたかったのか」
「いえ、信長様に休息を、と……思って」
「俺に休息を?」
「この飴を食べさせて、誰かに信長様に成り代わってもらって、政務を代わってもらうんです、それで……で……」
モジモジしている偽政宗を見て、信長は手を差し伸べた。
「貴様の気持ちはあいわかった。行くぞ」
「えっ、わぁっ」
偽政宗の手をグイッと引っ張って政宗から引き剥がすと、そのまま廊下の奥に消えていった。