第5章 ※過去と傷と、白と黒と
—————約3週間前
「君が…この会社に入社した時から…ずっと君だけを見てきた…好きなんだ。
俺と結婚を前提に付き合って欲しい!」
『……』
彼は誰だろう。というのが正直な第一印象だった。
その次に感じたのは、凄い自信だな。だった。
少なくとも、私にとって彼は初対面の人だ。それなのに今の彼の自信といったら。
まるで振られる確率が一%もないかのような。自分の想いが成就する確信があるかのようなそんな表情…。
確かに女受けの良さそうな顔をしているし、身長も高く身に付けている物もおそらく一級品。
正直どうしてこのような人が私に告白しているのか分からなかった。
しかし、私の中でもう答えは出ていたのだ。
『ごめんなさい…お気持ちは嬉しいのですが私いま付き合っている人がいるので…。すみません』
謝罪の言葉で締めくくると、彼の表情が苦悶に歪んだ。
そしてその値段の高そうな靴で大きな靴音を鳴らして、私の前から去って行った。
「えぇ!振っちゃったの!?」
『だって、顔も知らない人だったし。私そもそも彼氏いるし』
おそらくは誰かに告白現場を見られていたのだろう。社内に噂は広まっていた。
「もっ、たいない!エリ知らないの?
あの人社長の息子だよ?従って次期社長!上手くやって結婚すれば、貴女は社長夫人!
あーあ、玉の輿街道真っしぐらだったのに」
下卑た笑いを隠しもしない友人。まぁこういう裏表のない彼女だからこそ、私は好んで付き合いをしているのだが。
『あはは、それは勿体ない事したかもねー』
「そうだよ!顔も良いし、お金と地位もある!
エリは選択を誤ったよ!絶対」