第38章 ファン1000名様突破記念 読み切り
俺は、首に回された腕をゆっくりと解いていく。じっとこちらを見上げてくる瞳を見据えて答える。
「ごめん。そういうのは、もういいや。
多分だけど俺にとって、君もあの人も、本当に必要な人じゃなかったんだよね。
だから、ごめん。俺はもう君を求めない」
冷たい秋風と共に、平手打ちが飛んできた。でも今度は避けなかった。
俺が悪いと、甘んじて受け入れる事が出来たから。あえて彼女の制裁を受け入れた。
本気になんかなった事がないくせに、彼女の体と心を弄んだ報いだ。
「なんで避けないのよ」
「俺が悪いからね…ごめん。今まで、不誠実だった」
頬を叩いて少しは気が晴れたのか、彼女の声からは些か怒気が和らいだ様子が伺える。
「……変わっちゃうのね。カカシ。
私は、貴方のその不誠実なところが好きだったのに」
少しだけ熱くなった頬の感触を味わいながら、小さくなっていく彼女の背中を見送る。そして完全にその姿が見えなくなってから呟いた。
「……え?どういうこと?」
俺は彼女と反対方向に歩き出して、考える。
“ 誠実 ” より “ 不誠実 ” を好む女性もいるという事か。紳士な応対をしたにも関わらず殴られたのでは堪らない。
「…もう、俺には女の人の何一つ理解出来る気がしない」
こうなってくると、いよいよ分からなくなってくる。
はたしてこの世には本当に、真実の愛とか運命の人、なんて物は存在するのだろうか。そんな眉唾物、現実世界にあるなんて信じられない。
…いや、違うな。これは言い訳だ。きっと、この世にはそれらが間違いなくあるのだろう。
ただ…それらを俺が見つけられないだけ。どうしようもなく動かされる心を、俺が持ち合わせていないだけだ。
いつか、こんな俺にも見つけられる日は来るのだろうか?
何を犠牲にしても、手に入れたいと思える人が。
心の底から、俺を熱くさせてくれる女性が。
今はまだ、そんな存在が現れるなんて 想像すら出来ないけれど。