第38章 ファン1000名様突破記念 読み切り
その後は二人と居酒屋の前で別れ、俺は一人で家路についていた。
思っていたよりも長い時間、彼等と飲んでいたらしい。火照る顔がそれを物語っていた。
最近めっきりと秋らしくなり、特に夜は冷え込む。しかし、今のこの気温は酔いを覚ますにはちょうど良かった。
「あれ、カカシ?」
人通りのほとんどないこの深夜の街路で、声を掛けてきたのは、たしかに見覚えのある女性。
それもそのはず。彼女は、俺の前の前の…多分もう一つ前の恋人だ。
「久しぶりね!どこかで飲んでたの?」
酔っ払った頭で、懸命に彼女の名前を記憶の中から引っ張り出そうと躍起になる。しかしそんな俺には御構い無しに、彼女は言葉を続ける。
「久しぶり。友達と焼き鳥屋でちょっとね」
「ところで聞いたわよ?あなた別れたんだって?」
そっちが本題。とでも言わんばかりに彼女は言い放つ。
「まあね」
それにしても、相変わらず耳が早い。あぁそうか。たしか本人が色々なところで話して回ってるってアスマが言っていた。きっとそこから巡り巡って彼女の耳にも入ったのだろう。
「じゃあもう遠慮する必要もなくなったわけね。私、カカシと別れた事後悔してたんだー。ねぇ、今から家行っても良い?」
するりと、白くて細い腕が俺の後ろ首へと回される。職業柄、首周りを他人に触られると嫌でも警戒してしまう。
「別にヨリ戻せとか言わないから、今晩だけでも一緒に過ごさない?」
甘い誘惑に甘過ぎる香り。
しかも、相手は何の制約を求める事なく 身体だけをご所望だ。自分にとってもこんなに都合の良い事はない。いつもの俺なら、何の躊躇もなく二つ返事で拾い食いしているだろう。
しかし…さっきのガイの言葉が思い起こされる。
“ 誰彼構わず手を出していたら、この先お前にとって本当に必要な人が現れた時、それに気付けなくなる ”
「…ガイのくせに、妙に言い得た事を」
俺の、ぽそりと落としたような言葉に顔を傾ける彼女。
「カカシ?」