第1章 死と異世界と、質問と銀髪と
この人の目が苦手だ。
人の事を遠慮なく見つめる、真っ直ぐに突き刺さるような視線。
まるで私の心の中を、全て見透かされているかのような錯覚に陥る。
目付き自体は鋭くは無いし、片目しかこちらには向けられていないというのに。
不思議な感覚だ。
『…貴方が私を、ここに連れてきて下さったんですよね。
さっきナースの方から聞きました。
ありがとうございます。助かりました』
一般的なお礼の言葉をつらつらと並べる。
本当は、助けてもらった事に対して 何の感謝の気持ちも持ち合わせはいない。
「…それ、本当に思ってる?」はは
『………』
ほら。やはりこの人には、私の浅い心の内など全て読まれてしまっているではないか。
「まぁいいけどね。とりあえずこっちの質問に答えてくれると、ありがたい」
抵抗するのも面倒なので、私は彼からの質疑に付き合う事にする。
彼からの質問はいたって普通。特に変わった物は含まれていなかった。
まるで、友達になりたての二人が、気まずい沈黙を作り出さないようにする為に必死で行う儀式のような。
「読書が趣味っていうのはいいね。俺も好きだから。本読むのは」
そう言って、棚に置いた卑猥な書物に視線を投げる。
もうエロ本ネタは十分だ。
「特技は?」
『特に…秀でた物はないんですけど。あえて挙げるなら、料理でしょうか』
「…へぇ。女性らしくて大変結構だね」
彼の表情が唯一伺える、右目が私に優しく微笑みかける。