第1章 死と異世界と、質問と銀髪と
異世界へ来たなら、もっと慌てふためいたり。
心の底から絶望させられたり。
またはワクワクやキラキラといった希望の光で満ち溢れる。
そんな気持ちで満ち満ちていく物だと、勝手に思っていた。
そんな感情が一ミリたりとも湧き上がってこないのは、きっと私の心が死んでいるからなのだろう。
重たい瞼を押し上げると そこには、本日既に一度見た天井があった。
病院の天井だ。
短時間で莫大な情報を脳に与えた為、さすがに頭は疲弊していたのだろう。
思いのほか深い眠りについていたようだ。
ゆっくりと半身を寝台から上げる。
「おはよう」
『…………』
さすがに言葉を失った。
私が目覚めて、初めて目の当たりした男性が…
堂々と十八禁であろう書物を片手に微笑みかけてきたのだ。
『あ、…おはよう、ございます』
それでも無視はいただけないと思い、なんとか口を動かし返答した。
すると彼はパタンとその書物を畳むと、窓際からこちらへ移動して来る。
「体は平気?」
『…はい。大丈夫です』
まだエロ本の衝撃を自分の中で消化出来ていないままだったが、とりあえず聞かれた事には淡々と答える。
「そっか。それはなによりだ。
じゃぁ早速、いくつか質問させてもらいたいんだけど…
その前に、自己紹介がまだだったね。俺の名前は
はたけカカシ。
君の名前も、教えてもらえる?」
『……私の名前は…
中崎…。中崎エリ です』