第1章 死と異世界と、質問と銀髪と
血液型を聞かれたところで、いよいよこの時間にも嫌気がさしてきた。
「好きな食べ物は?」
『肉。あの、はたけさん』
「ん?」
『実は私用事を思い出しまして、そろそろここを出たいのですが…』
「…そうか。じゃぁ次の質問で最後にしよう」
嫌な顔ひとつせずに、私の気持ちを汲み取ってくれる彼は、優しい人だ。
助けてもらった事への感謝こそはしていないが、見知らぬ私に対し ここまで親切にしてもらったお礼はしたい。
この世界にも…いや、この世界には、“良い人”というのは存在するのだ。
そんな事をぼんやりと考えていた。しかし彼から繰り出される次の質問で、私の平和な考えは一瞬で凍り付く。
「君は…どうしてひた隠しにする?
自分が、この世界の人間じゃない事」
『……なん、で』
あまりに衝撃的な言葉が彼の口から飛び出した。
思わず声が上ずる。
「なんとなく。だけど、
君のその反応で確信出来たよ」カマかけてごめん
しまった。なんて後悔今更遅い。
「で?どうして隠すの?普通すぐにでも助けを乞うものじゃない?
俺にでも看護婦さんにでも」
『……頭がおかしい人、と。思われたくなかったので』
「ま、それにしても…落ち着きすぎでしょ」
たしかに、ここが私の知らない世界だと気付いた時には動揺もあった。
しかし気になる事はナースに聞いた。
テレビでこの世界の事を少しは知った。
それだけでもかなり把握できたのだ。
自分の置かれている状況に。
『…そうでしょうか…普通です』
「…んー、掴めないね。どーも」
彼は銀色の箒みたいな頭を、少し乱暴に掻いた。