第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
—————
これも仕事のうちだから仕方がないけれど。ミナトには、いつも唐突に呼び出される。
そして今は、座り慣れたソファに腰掛けて彼を待つ。
急に人を呼び付けておいて、早急に駆け付けた俺を待たせるという理不尽。だが これも仕方がない。彼は俺よりも多忙を極めるお人だから。
しかし、予想していたより 時間はかからず彼は現れた。
「お待たせカカシ」
「いえ…大丈夫です。先生こそ、もう用事は済んだんですか?」
「あぁ…うん。済んだよ。全部。滞りなく、ね」
「??」
いやに含みを持たせた言い方は、些かいつもの彼らしくない。
まぁ、俺はとにかく呼び出された理由を知る事が出来ればそれでいい。
今は、エリ以外に費やせる脳みその空きはない。
「…俺は今日、なぜ呼ばれたんです?」
「だから、終わったんだって。全部。それの報告」
彼が何を言いたいのか、まだよく分かっていないのに。俺は鳥肌が立つのを感じた。
「…先生」
「エリを帰したよ。元の世界に。
初めから、こうすればよかった。君の言う通りだった。彼女はもとより、この世界にいるべきではなかったんだ」
俺は、彼の言葉が終わった瞬間に部屋を飛び出していた。そして向かった。隣の小部屋へ。
勢い良く扉を開く。その風を受けて、蝋燭の炎が怪しく揺らめいた。
半年の間、そこに確かにあり続けた例の陣。それが今では、大きく形を崩している。まるで誰かが意図的にぐちゃぐちゃにしたようだった。
一部は新たな血で汚れ、一部は水で滲み。一部は刀傷で紋様が削り取られている。
「はたけ様。お戻り下さい」
「…」
呆然と陣を見つめる俺に、初音が静かに告げた。
「四代目様の元へ。お戻り下さい」
いつも以上に冷静な初音に、微かな怒りが込み上げた。
これは、お前がやったのか。と、あと少しで声を上げてしまうところだった。
俺が再び彼の元へ戻ると、ミナトは火影のみが座る事を許された椅子に着いて、書類に目を通していた。
まるで、何事もなかったかのように。
もう、エリに微塵も興味などないように。
俺はソファに座る気になれるはずもなく、彼の前へ立つ。そのまま問い掛ける。