第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
ミナトが、私を後ろから抱き締めた。
いや…これは、抱き締めるというより。
閉じ込める…という表現の方がしっくりくる気がする。
それくらい、彼は強い力で私の事を逃すまいと拘束した。
「君は、今…俺がどんな気待ちでここに立っているか分かる?」
『え、』
「まぁ…いいか。君に俺の苦しみを吐露したところで何も変わらない。
とにかく、俺は悔しい。ずるい。特に…
…カカシは、ずるいよ。
俺が、俺が君を呼んだのに!
ここに君を召喚したのは…俺なのに」
『…ミナト、さん。ごめんなさい、私』
分かっているつもりになっていただけで、分かってはいなかった…彼の苦悩。
「もうね、いいかなって。もう色々と考えるの疲れちゃったんだ」
あぁ。ミナトが。
「俺の物にならないんだったら、君が手に入らないんだったら、
全部壊れちゃえばいい」
壊れてしまった。
『ミナトさん、ミナト、さん』
私には、彼の名前を呼ぶ事しか出来なかった。
きっと、私を捕まえているミナトの腕にも 私の体の震えは伝わっているだろう。
でも多分いま彼は笑顔だ。なんとなく分かる。
「俺の手から離れてしまうんだったら、もうどうせなら…カカシの手も届かない所へ。
俺もカカシも手に入らない所まで遠くに行って欲しい。手に入れたいって願望を、もう抱く事すら許されないくらい」
キツくキツく私を閉じ込めていた腕が緩む。そして、とん。と私の背を押して、軽く突き放した。
『…ぁ』
そう。私が突き放された先には、彼の血で描かれた陣の中。
「……俺が、こうやって」
ミナトは、親指の腹に自らの歯を突き立てる。
見る見るうちに血が滲む。眼が覚めるような鮮烈な赤が、私の恐怖心を煽る。
「で、ここに手をついたら…」
ミナトは、私を入れた陣の前に両手を近付けていく。
『ミナトさん、待って!』
「そうすれば、君は
俺たちの絶対に手の届かない場所に」
その時、この異様な空間にノックの音が響く。
「…はたけ様が、まもなくいらっしゃいます」
『初音さん!』
私は、ドアをノックした人物。彼女の名を叫ぶ。
それは、助けて欲しいという懇願の叫びでもあった。しかし
「……まだお済みでないのなら、お急ぎ下さい」
私の儚い希望は、瞬時に打ち砕かれた。