第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
「いつ帰したんですか」
「ん?さっきだよ」
「どうして陣を、あのように?」
「まかり間違って、彼女が帰ってこれないようにね。出入り口はしっかり閉じておかないと」
いつもと同じ口調で淡々と答えを返し続けるミナト。あまりにも落ち着いている。
彼は何とも思わないのか?苦しくないのか?
もう彼女に会えないと分かっているはずなのに。
「…どうして急に、決断されたんです?
貴方、エリを帰す事あんなに否定してたでしょ」
「カカシこそどうしたの?
君はずっと、元の世界に帰すべきだって言ってたよね?」
その通りだ。
これで、もうエリに危険が及ぶ事はない。
エリを失う心配をしなくても良い。
ずっと…俺が望んでいた事が、晴れて現実になっただけじゃないか。
どうして、俺はこんなにも焦っているんだ。
「何?カカシ、もしかして
エリにもう一生会えないっていう現実に直面して、後悔してるのかい?」
「…いや」
「後悔、してるの?
エリを自分から突き放した事。
ちゃんと捕まえておかなかった事」
「……まさか」
「…だよね。賢い君が、そんな後悔するはずないよね」
これで良かったのだ。
俺は、間違っていない。
全ては、これで丸く収まる。
これから俺は、本当の俺に戻るのだ。
彼女に出会う前までの俺に。
ただ、本来あるべき姿の日常が帰ってくるだけに過ぎない。
「先生…ありがとうございました。
これで良かったです」
目の奥が熱くて。音が上手く拾えなくて。
心臓が怖いくらい早く脈打っていて、息も上手く吸えなくて。
喉に声が張り付くくらいカラカラに乾いてる。
俺は今、上手く話せているか?
上手く笑えているだろうか?
自分で自分を上手く騙して、早くこの場から去ってしまいたい。
ミナトの前から早く立ち去りたい。
「そうだよね。
…カカシ?大丈夫?」
「何が、ですか?俺は大丈夫です。
用向きは以上なら、失礼します」
「……うん。お疲れ様」
俺は踵を返すようにしてドアの方へ。
荒々しく開けて、廊下を走るように駆け抜けた。