第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
「カカシが来るまで、まだ時間がある…。
その間に、君に面白い物を見せてあげよう」
『?』
含みを持たせて言った彼が、私を連れて来たのは、いつもミナトが仕事をしている大部屋の隣ある部屋だった。
勿論私はここに足を踏み入れた事はない。
その部屋の扉をミナトが開けた瞬間、明らかに冷たい空気が私を包んだ。
直感的に思った。
私、この部屋に入りたくない。
「どうしたの?ほら、」
ミナトが優しく私の手を引く。
私の気持ちとは裏腹に、その小部屋についに足を踏み入れる。
窓もなく、明かりもない。何本かの蝋燭のみが その暗い部屋をなんとか照らしていた。
そして部屋の中央には、人が一人立てるくらいの陣。
褐色の線で描かれた、陣。
『…ミナトさん…私、これ…知ってる、気がします』
私はその陣を近くで見つめる。
「そうだよ。これは、俺の血で書いた…
君を、この世界に招く為に書いた、口寄せの陣だ。異空間忍術を織り交ぜた、特別製の、ね」
背後から、いやに冷たい彼の声が響く。
改めて、私は間近にそれを確認する。彼の血で描かれたというそれは、もう茶色く変色してしまっている。それは当然だろう。なにせ、私がこの世界に呼ばれてもう半年が経過している。
いつまでも鮮やかな赤であるはずもない。
「これ用意するのに、結構苦労したんだよ。何も情報がない所から初音と二人で調べてね…
三ヶ月くらいかかったかな?でも そんな苦労も、運命の人に出会う為だと思えば 全然苦じゃなかった」
遠い目。
まるで楽しい日々の思い出話をするようにミナトは語る。
「でもやっぱり、未知の術だから…完璧にはいかなくてね。随分と、ずれちゃったんだよ。
この場所に召喚出来るはずだった君が、違う所に現れちゃうし。
時間だって、予定していた日にちより何日も後になったしね」
ミナトが、何を言いたいのか全く見えてこない。
でも。なんだか怖い。
ミナトが、私の知っているミナトじゃないような、そんな不安が私の胸をいっぱいにした。