第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
私は家に帰ると、小さなガラス容器に水を張って。その中に苦労して手に入れた花弁を浮かべた。
小さくて可愛いそれは、風も吹いてないのにクルクルと水面を踊った。
『…ふふ』
そんな様子を見ていると、心の奥から少しだけ勇気が生まれてくる気がした。
「なー、もう腹減ったってば…!食べていい?食べていー?!」
『あと少しだけ待って?きっとあと少しでミナトさん帰ってくるから』
テーブルの上に並んだ料理を前に、待てをされた犬状態のナルト。
しかし、そんな時玄関が開く気配がした。
『ほら、きっとミナトさんだよ?』
「ただいまー」
私の予想は的中した。すぐさま玄関に向かい彼を出迎える。
『おかえりなさい。ご飯ちょうど出来ましたよ』
「ほんと?ありがとう。お腹空いてたんだ」
私はミナトから上着を受け取り、それをハンガーにかける。
そんな様子を見て、ナルトが目をパチクリさせている。
「…なんか、まじで、ちょっと見ない間に本当の夫婦みたいになってんなぁ」
『え?』
「そうでしょそうでしょ。
おかえり。充実した修行の旅は出来たかな?」
「おう!今なら父ちゃんにだって勝てちゃうかもなー」
「あはは、それは言い過ぎでしょ。まぁいいよ。明日久しぶりに手合わせしようか。
修行の成果、見せてもらうよ」
「望むところだってばよ!」
『……』
彼等は、理想の親子だなぁ。二人の会話を聞いていて、心がほんわかしてしまう。
そんな心情が、顔に出てしまっていたのだろう。
「「何笑って」」「るの?」「んの!?」
二人のセリフがシンクロした。
『あはは!二人は本当に、そっくりですね!
ほら、ご飯冷めちゃうんで食べましょう?』
「そうだね」
「俺もう腹ペコペコ!いっただきまーす!」
いつまでも、ずっとここで。ミナトとナルトの素敵な親子を見守っていたい。
勿論そんな気持ちがあるのも本当。
しかし…やっぱり自分の気持ちに嘘は付けない。
随分と遠回りしてしまったけれど…
私はちゃんと、彼と話がしたい。
私は、水の上に浮いた花弁をぼんやりと眺めた。