第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
私はサスケに渾身のワガママをぶつけにかかる。
『じゃぁサスケ君!私の事ぎゅっとして?』
「……わ、分かった」
サスケの頭の上に、??がたくさん見えるようだった。
しかし、戸惑いながらも彼は私の体を自らの腕で包み込んでくれる。
『…暖かい…落ち着く』
「…そうか、よかったな。
いや、でもこれは一体なんなんだ」
『逃げてるの。サスケ君に』
サスケは、私がこの世界に来て初めて自分から触れる事が出来た男性。そして私の接触恐怖症を治してくれた特別な人だ。
そんな彼のハグは、私に絶大な安心感を与えてくれる。
辛い事があっても、悲しい事があっても、彼の腕の中にいれば怖い物などない。と思わせてくれるのだ。
「…変な奴」
サスケは、言いながらもしっかりと私を抱き締めてくれる。
『…ありがとう。元気出た…。
でもあれだ、こんなところ、サスケファンの女の子達に見られちゃったら事件だね』
「そんなのは俺の知った事じゃない」
『冷たいなぁ…』
そんな私達の上を、また突風が吹き抜ける。
『わぁ、凄い桜吹雪が…本当に雪みたい!』
降り落ちる無数の花弁に手を伸ばす。そんな私に、サスケが呟いた。
「…これだけ桜が舞ってれば…エリでも掴めるんじゃないか?」
『え?』
「掴めたら、叶うんだろ。願い事」
私は彼の言葉にはっとする。
そうか。彼は覚えてくれていたのか。
私と彼は、まだ咲いたばかりの桜を見上げて。
桜の花びらを地面につくまでにキャッチする遊びに興じた事があるのだ。
そしてそれが成功すれば願い事が叶う。などと私が子供じみたおまじないを彼に話した。
『…そうだね。前はまだ桜が咲いたばかりで、ほとんど花びら落ちてこなかったけど…』
「今掴めなかったら、アンタやばいよな」
『やばいって言わないでよ…』
「大丈夫だ。
…あるんだろ、叶えたい願い事」
私は、その場で立ち上がって、空中に何度も手を伸ばす。
その度に、まるで花弁に弄ばれるように指を躱されてしまう。
『ぐ…っ』私はやばいのか…
「諦めるな。頑張れ」
サスケの言葉に励まされ、再度トライする。
すると、ついに…。
すぐさま二人で手のひらの中を確認する。
ゆっくりと開いた私の手の中には、桃色の花弁が確かに一枚あったのだった。