第32章 花の後と、墓参りとモノクロームと
『んんっ、!』
彼とのキスは初めてではないが、これまでで一番深くて激しい。でも、こんなにも近くでこうして触れ合っているというのに。
相変わらず彼の気持ちは分からない。
私に流れ込んで来る、熱とか、吐息とか唾液とかと一緒に
彼の気持ちも、私の中へ流れ込んで来てくれればいいのに…
互いの舌が、互いの口中に行ったり来たりして、もうわけがわからなくなってきた頃。ようやくカカシが我に返ったように私から離れる。
『は……っ、はぁ、』
しかし、お互いキスの余韻が強すぎて、まだ頭がぼーっとしてしまっている。二人して肩で息をする。
「…は…っ。ごめん」
一足先に現実に引き戻されたといわんばかりに、額当てを拾い上げる。
私はまだはっきりしない頭で、彼がそれを頭に付けるところを眺めていた。
「嫌いに…なってしまえばいいよ。
こんな酷いキスをする男の事なんか」
『……え』
「別に…気持ちがなくたって、これくらいのキスは出来る」
どういう、意味だろうか。
まさかカカシは…私に嫌われる為に、こんなふうにキスをしたの?
私を、騙した?こんな…まるで本気の想いが込められたかのようなキスを、しておいて。
嬉しかったのに。
本当に、私の事を心の底から求めてくれたのかと
思ったのに!!
『……最低』
空気は最悪だったが、カカシもまさか山の中に私を置いていくわけにもいかず。
私を背負ってミナトの家の前まで送ってくれた。
勿論あの後、私たちは道中一度も口をきく事はなかった。
『送ってくれてどうもありがとうございました』
なんの感情も無く、私は彼に形式だけの礼を告げる。
「…いや」
『はたけさん』
「なに?」
『さようなら』
私は、ミナトの家の玄関の鍵を開け、扉を開く。
「…さよなら」
カカシの返答を、背中で受けながら扉を閉めた。