第32章 花の後と、墓参りとモノクロームと
それからカカシは、私を背負ったまま無言で走り続けた。
私も彼も互いに、しばらく言葉を発さなかったのだが。
やがて彼の方から口を開いた。
「…ごめんね、邪魔しちゃって」
擬似的なものとはいえ、セツナとのキスシーンを目撃されていた事を思い出した。
『べ、別に邪魔されたと思ってませんでしたけど、ただ…もう少し、ゆっくりお別れの挨拶はしたかった、です。
次いつ会えるか、分からないのに…』
「そうだね…ごめん」
カカシはまた謝った。
どうして彼は、あんなにも急くように私とセツナを引き離したのか。私と彼を近付けてはいけないみたいに。
珍しくカカシは焦っていた。
まるで、何か理由があるみたいに。
それに…カカシはさっき言っていた。
“ その子は連れていかれたら困るんだ ”
この言葉の真意は、どこにあるのだろう。
彼は今、何を考えているのだろう。
どうしてここにいるのだろう。
なぜ、私を背負って走っているのだろう。
「エリ、もしかして…さっき迷った?
セツナに…ついて行きたいと思った?」
『え…』
私が考えている事を知ってか知らずか、カカシの方から私に質問を投げ掛ける。
『それは…ちゃんと、考えてみないと…とは思いました。
セツナの言葉は、本気だったから…。
人の本気の言葉は、こっちも本気で受け取らないといけないから』
「うん…そうだね、でも。
悪いけど君を行かせる事は出来ないんだ」
木の枝から木の枝へ、飛び移りながらカカシは言った。
『それは…どうして、ですか』
心臓が、うるさいくらいに鳴っている。
きっとカカシにも聞こえてしまっているのではないだろうか。
「それは、四代目の命令だからだ」
その言葉で、今度は別の意味で心臓が跳ねた。
「俺が君の尾行をしたのも、俺が今ここにいるのも。
全部、あの人の命で動いているだけに過ぎない」
馬鹿みたいだ。
私は、期待していた。
そして。見事に裏切られた。
駄目だ。泣くな。勝手に、期待していただけ。
そして勝手に裏切られただけなのに。
ここで泣いてしまえばそれこそ、可哀想な女の子になってしまう。