第32章 花の後と、墓参りとモノクロームと
「ごめんね」
カカシがもう一度謝った。
そして、私の方に背中を向けて体を屈める。
乗れ。という意味なのだろう。
『セツナ、私…』
「いい。俺の事は…気にしなくていい。
さっきの言葉は忘れろ。心配しなくても、俺は俺で勝手に幸せになってやるから」
セツナはそう言って笑った。
彼が笑えば、私は嬉しいはずなのに。
どうしてだろう。今の彼の笑顔を見ていると、泣きたくなってくる。
『セツナっ、』
「ほら、早く行けよ」
セツナは、カカシの背中へと私を軽く押した。
カカシは私を背負い込むと、すぐさまこの場を離れようとする。
『待っ』
「エリ」
セツナが、私の名を呼んだ。
私は彼の方へ手を伸ばし、懸命にその声に耳を傾け続ける。
あぁ、私は知っている。彼がこの表情で私の名を呼んだ後は、いつもこう言うのだ。
“ またな ” と。
しかし、今回は違った。
「ありがとう」
『っ!!』
別に彼が、またな。と言わなかったからといって、もうこのまま一生会えない。そう決まっているわけでもないのに。
私はどうしようもない不安に駆られていた。
『セツナ!!』
今、別れてしまえばもう彼と向き合う事が出来ない。そんな漠然とした不安。
しかし無情にもカカシは、その足を止めてはくれなかった。
どんどん、どんどんと彼が小さくなってしまう。
私にはどうする事も出来なくて。だんだんと大きくなっていく彼との距離を感じていた。
そうして見つめていると、そんなセツナの口元が動いているような気がした。
もしかして、まだ私に何か伝えたい事があるのではないだろうか。
しかし、その言葉を受け取れる術など。
私には無かった。
「俺のこの、モノクロの世界に色を与えてくれたのは…他でもないお前だ。
ありがとう…エリ」