第32章 花の後と、墓参りとモノクロームと
こんな事を、こいつに話すつもりなんてなかったのに。
ただ、シュンにエリを会わせてやろうって。そう思っていただけなのに。
『セツナ…』
彼女は、こんな言葉をダラダラと垂れ流す俺をどう思ったのだろうか。
やけに真剣な顔をして俺の前に向き直る。
『前に、少しだけ話した事があるけど。
私も、世界を憎んでいた過去があるよ。
その時は私も、光が綺麗だなんて事に気付いてもなかった。
今のセツナの言葉を聞いて思った。
私とセツナは、やっぱり似てるなって。
だから、分かる…
今のセツナは、幸せになる事を諦めてない?』
どうして、他人のこいつが。俺の考えている事。思っている事。心を、分かってくれるんだろう。
本当にエリは、不思議な奴だ。
甘えてしまいたくなる。
すがってしまいたくなる。
俺は幸せになれなくたって、いいってさっき思っていたところだというのに。
『…私に、光の美しさを教えてくれた人は。
はたけさんや、サスケ君やミナトさんだった。私にとって、三人はまさに灯台。
私を正しい方向な導いてくれた光…。
セツナは…、
言ってくれたね。私が灯台だって。
暗い海でも、私を見つけて帰ってこれるって』
「そうだ。
俺の命を救ったのもお前。
俺が行くべき道を照らして、踏み外させなかったのもお前だ。
今俺がここで、こうして兄貴の墓の前に立ててるのも全部…お前のおかげだ。
感謝しても仕切れないと思ってる。
これからの俺の人生…丸々 エリに捧げたとしても、まだ足りねぇな。この恩義を返すには」
全て、俺の本心だ。
今まで自分の復讐心に囚われて生きるだけだった俺にとって、まさか誰かに忠義を誓いたいと思う日が来るなんて…。
想像すらしていなかった。
俺が、俺の変化に一番驚いてる。
「…俺は、アンタの忍になって生きてもいい」
『じゃぁ…セツナ、私のお願いを一つ聞いて』
彼女の、あまりに実直で熱誠さを孕んだ言葉に。
俺はどうすれば本気で応える事が出来るだろう。
そう考えた瞬間、勝手に体が動いた。
『!?セツ』
俺は彼女の前で、片膝をついて頭を垂れた。
突然跪いた俺に、エリは一瞬戸惑った。しかしすぐに言葉を再開させる。