第32章 花の後と、墓参りとモノクロームと
———その頃、火影詰所
「四代目様…申し訳ありません。
見張り四人…全員、振り切られました」
「…そうか。
彼女を攫った賊の風貌は?」
「赤髪に長身の男です」
「だと思った。彼なら大丈夫だよ。
君等にエリを見張らせていたのは、彼女に危害を加えようとする輩から守ってもらう為だから」
「不甲斐ないです…すみません」
「ん、流石に相手が悪いさ。気にしなくていい。
それに…きっと、今も追跡続行出来てる男が一人。いるはずだからね」
「!我々以外にも護衛を付けておられたんですか?」
「いや?俺は指令を出してはいないけどね。
多分…自主的に動いてるだけだと思うよ」
『セ、セツナ!早い早いっ』怖いっ
まるで空を飛ぶように移動するセツナに振り落とされまいと、必死でしがみ付いていた。
「このくらいで何が怖いだ。お前ついさっき本気で死にかけてたくせに」
『??何のこと?』
「あほ お前…、もう忘れてやがるのか…
自分で自分のド頭に苦無ブッ刺そうとしてたじゃねえか」
それは紛れもなく、さきほどの隠し芸の件。
『あぁ!…っていうか、セツナ見てたの!?』
私はやっと目を開いて、セツナを見る。
思いの外、顔が近くにあって心臓が高鳴った。
「まぁな…俺が助けなきゃ、死んでたかもな」
意地の悪そうに、微笑むセツナの横顔。
そうか。やっと分かった。いや、むしろなぜすぐに気が付かなかったのか。
あの時、私の事を移動させてくれたのはセツナだ。
時を止め、私の体を1メートルずらしてくれたから私は苦無に当たらなかった。
『…あ、ありがとう…。でも!
…あんな事に、力使っちゃ駄目だよ』
「そう思うんなら、隠し芸で死にかけてんなよ。
恥ずかしい奴…」
『……ふふ。たしかにあれで死んだら私可哀想』
「自分で言うな」可哀想とか
セツナが、こんな風に柔らかく笑っている。
それがこんなにも嬉しい。
私達は、移動中しばらくの間会話をした。
内容は、本当に他愛の無いものだった。
最近どうして過ごしていただとか、今日の花見の事だとか。
でも、たったそれだけの事がすごく幸せで。
こうやって言葉を交わせている事自体が奇跡みたいで。
ただ嬉しかった。