第29章 別れと髪と、湯と理性と
「アゲハは、アンタが瞳の能力を使う場面を直接見てない」
『え?…でも』
「俺はアゲハを影真似で縛ってた。そんで決定的な場面では顔の向きを変えたからな」
だから、エリがセツナと見つめ合ってる瞬間。アゲハには全く関係のない方角を向かせていた。
勿論、窓やガラスの反射によって目撃されないように計算した上で だ。
しかし当然ながら、わざわざ顔の角度を変えてまで俺がその場面をアゲハに見せなかったのか。
と、彼女自身も違和感を抱いたであろう。
しかしそれでも、決定的なところを見られてしまうよりはマシだと判断した。
ちなみにこの事実は、カカシとミナトにも共有済みだ。
『はーー…シカマル君は、賢いねぇ…』
「な、なんだよ気持ち悪い…」
『ありがとうね!もー感動だよ!どうやったらこんなに賢くて優秀な子が育つの!?
いつかシカマル君のお父さんとお母さんに会わせて欲しいよ!』
そんな馬鹿を言いながら、彼女は乱暴に俺の頭を撫で回した。
背中に乗っけている為、俺はされるがままなされるままだ。
「や、やめろ!それに、家なんかに連れて行ったらアイツ等に誤解されるだろ!」
失言だ、と思った。
『ん?誤解って?』
ほらきた。こいつにその手の話は全く通用しない事を完全に忘れていた。
「…っ、なんでもねぇよ!ちょっと黙っててくれ。落とすぞ」
『な、なんで!黙ってるから落とさないでねシカマル君!』